庭のベルフラワ−

田舎の町の一隅のとある庭にリンリ−ンリンリリ−ンとかすかにかすかにベルの鳴るような音が聞こえました。しかしその音に気づいた人はありません。あまりにかすかだったからです。その家の庭にはいつも雀が何羽か必ずやってくるのでした。それはいつもそこのおばあさんがそれも90近くになるおばあさんがパンクズを塀の上に置いておくから毎日それを食べにやってくるのです。
その雀たちが話していました。
「おい、あそこのいつも行く庭から何か聞こえないか」
「何かって」
「ベルの鳴るような音らしい」
「そうかな、そんな音聞こえないな」
「よく耳をすまして聞いてごらんよ」
「う−、そういえば何かかすかに聞こえるな」
「リンリンリリン−ンリン.........」
「あれはベルの音だよ、確かに」
「そういえばあの庭に石があるだろう、その脇に紫の小さな花を植えた、その紫の小さな花が一杯、ベルようなかわいらしい花だよ」
「う−そう、確かにベルの花だな、あれは・・・・あそこからよく耳を澄ますと聞こえるんだよ、ベルが鳴る音が・・・・」
「澄んだ音色だね、いい音だ」
こうしてピ−ピ−ピ−チクピ−ピ−ピピ−ピ−チク雀はおしゃべりしてバンクズをついばみ去ってゆきました。
そのあとに黙っている石のかたわらにそのベルの花は咲きその石も聞いていました。
「ああ、いい音色だ、とてもいい音色で気持ちいい、.....ここにもようやく春がやってきたな・・・」
そして石はまたし−んとして黙ってしまいました。冬の間庭は北風に吹かれ雪がつもりみぞれにふられじっと耐えていたのでした。そして春になりいろいろな花が咲き始めたのでした。
こうしてその小さな町の一隅の庭には訪れるものなく暮れてゆきました。その家を訪れる人はほとんどここ数十年見たことがないのです。雀は来ていましたがその他人が訪れることのないひっそりとした家でした。
夜になり月がでていました。月の光が庭にさしこみお月さんはつぶやきました。
「何かかすかに聞こえるね、あれはなんの音かな、ああ、あそこの狭い小さな庭かららしい、ああ、花が咲いているね、紫のベルの形をした花がね、あそこから聞こえてくるんだ、いい音色だ、この町はまだ静かだからいい、ゆっくりとベルの音に聞き入ろう.....」
月はやさしくその庭を照らしそのベルの花の鳴らすかすかな音に聞き入っていました。
しかし本当にその音色に気づいた人はありませんでした。その花はまるで誰も訪れることのない山深くに隠されて咲く花のようでした。確かにその花の一塊を手にのせて微笑んでいるのは森の神様だったのです。
それはなかなか人目にふれないしまたそのかすかな音を聞くものは少ないのです。