故郷 詩の部(小林勇一)


私の棲家は・・・・
菖蒲と水
夏の田舎の径


私の棲家は・・・・

私の棲家は人目につかぬ
山蔭の影濃き涼しき所
庭に紫と白の菖蒲の咲きて
そは互いに傷つけることなく
そにささやくは一匹の虫の羽音
舞い入るは蝶は花を求めて去り
そよ風がその花をなでる
老鶯が静かに藪に隠れ鳴いて
世の騒ぎから離れて遠く
そこを訪ねる人はまれなり
こよなく静寂を愛して
花々を庭に愛でつつひそか .............................
花は隠されてこそ美しく咲き
その美を余すことなく映しぬ
人の求めるべきは少なきが良し
人の心は欲により乱れる
多く求めて人は疲れるのみ............................................................
幸いはそこにあらず懊悩のみ
心にまして休まらじも
そが心かく休らえば神も休らふ
そこに自ずと妙音の楽が奏でられる
梅雨の晴れ間の明るい陽射し
山脈は青く遠くに映えて暮れぬ



 菖蒲と水

透き通った水の中に
その穢れなきあるがままの姿を
その偽りなきあるがままの姿を
静かに映すが良し
紫と白の菖蒲の花
水の乱れずして
調和して水に映りぬ



  
夏の田舎の径

夏の午後下がり細道あればあやしく誘われて行けば古き木の影涼しく家一ニ軒離れてありぬ。故郷に長らく棲めど知らざりしかもその細道の行くことなし
山蔭に緑深く影濃く帯びて庭に紫と白の菖蒲の咲きてあり。誰棲むとも知らじ家に人の声なく留守のごとし。その径を今日我初めて行きぬ。夏の午後下がり誰か知る雨蛙一つ葉にのり木陰に身を隠しぬ。でで虫も一つ静かに歩むべし。合歓の葉の夕風にそよぎそぞろ歩む田舎道。蝶の道の辺の花に休み眠らんとすや静かなる日こそここにあれ。一日明るき梅雨の晴れ間の明るき陽射しに照らされし道を帰りぬ。その眩しい光の身の内に入り我を健やかならしむ。我が心にその隠された細道は通じ花は心に映り自ずと詩となり絵となりて織られゆくこそ楽しけれ。夏の日の田舎の道は輝き我が心に忘れがたく至福のごとく映えぬ。



徒然草十段


よき人ののどやかに住みなしたる所は、さし入りたる月の色も、一きはしみづれと見ゆるぞかし。いまめかしくきらゝかならねど、木だち物ふりて、わざとならぬ庭の草も心あるさまに、簀子、透垣のたよりをかしく、うちある調度も昔覺えてやすらかなるこそ、心にくしと見ゆれ。


第十一段


神無月の比、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里にたづね入る事侍りしに、遙なる苔のほそ道をふみわけて、心ぼそくすみなしたる庵あり。木の葉にうづもるゝかけ樋の雫ならでは、つゆおとなふ物なし。閼伽棚に菊紅葉など折りちらしたる、さすがにすむ人のあればなるべし。