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遊牧民の系譜
ベドウィンのテント小林勇一


 遊牧民の系譜

遊牧民は土地を持たない
遊牧民はいかなる土地にも属さぬ
遊牧民の歴史は土地にあらじ
遊牧民はその父を知りその祖父をたどり
その祖父また祖父の名を受け継ぐ
唯一のつながりはその父系のつながりにある
アブラハム・イサク・ヤコブの神
遊牧民の伝えしは何ぞ
アブラハムの会いし神なり
モ−ゼの会いし神なり
モハメッドが啓示されしアラ−なり
それは目に見えず形をなさぬ
彼らが伝えしはその一なる神なり
遊牧民は土地を持たじ
境界のない砂漠を移動する
彼らが受くるは天からの啓示のみ
彼らは国を持たじ故郷ももたじ
一時彼らはここに留まるも異邦人
誠の住まいは天にのみあり
砂漠にては都市の繁栄も一時の夢
砂上の蜃気楼にて誠ならじ砂に埋もれぬ
遊牧民の伝えしは神のみなりき
彼らは天なる父を迎え天なる父の命に服す
彼らは何物も持たされぬ
大地の森の豊穣の神を持たぬ
ただ持つは一なる神のみなりき
ただ一なる形を成さぬ神のみもたらされぬ




ベドウィンのテント

はるかなる砂漠のオワシス
美しい木の花に風はそよぎ
野性の鳩の来たりてとまり
我は木蔭にしばし休みにき
花に風そよぎ我がみとれぬ
そこに神の祝福のありしも
神の深き慈しみのありしも
エデンの園パラダイスなり
我が時を忘れてそこにあり
砂漠の中に厳粛なる岩山や
粗末なテント質素な暮らし
山の陰羊の群今日も暮れぬ 
一つの井戸のいかにも古り 
祈りのレンガの囲いも古り
かなた荘厳な峨々たる岩山
夕陽はもの寂び輝き沈みぬ
突兀たる岩の狭間に風鳴り
今宵ベドウィンの客人あり
岩山と砂の道をひそか通り
ラクダはここに繋がれ休む
客人は神の賜物と粗末なる
テントに何をか語らうべし
岩と岩固く契りを結ぶごと
人と人とも固く結ばるべし
土地故にあらじ人と人なり
その祖先を同じうす族なり
唯一の神への祈りは自ずと
ここにひびきて聞かるべし
厳粛なる岩には神の教えの
戒めの刻まれ伝えられべし
まことにこの砂漠と岩山に
明瞭な存在の証しの場にて
唯一の神は顕れ契約を成し
また隠りたまいしはまこと
ここは神の住まいと定めし
厳粛な契約の場所にあれば
唯一の神に服する場なれば
神の声のみひびき刻まれぬ
家伝の古りし一枚の絨毯や
そこに神の導く楽園の図譜
少女の細き手に神秘の図案
緻密に縫い込まれて成りぬ
その絨毯の中に一つの宇宙
言い尽くされぬ神秘の宇宙

シナイ山



砂漠の民

我が神、我が城、私を救う者
我が神、我が寄り頼む岩、
我が楯、我が救いの角、我が高きやぐらです
(詩篇18−1)

岩山の連山に陽の没りぬ
隠されし岩の狭間や
遊牧の貧しき民の部落
羊飼いは帰り来ぬ
ラクダに乗りて果敢なる
厳しき風土に鍛えられたる
その砂漠の勇士、ベドウィンよ
そは領土を持たぬ遊牧の民
一なる神アラ−に平伏し
祈りは高らかに朗誦されぬ
モスクの塔の四つよ
日に日に祈りの声は絶えず
都市は軟弱と虚飾の住処と
修行僧は岩山に籠もりぬ
岩の戸は開き閉められぬ
謹厳なる岩山にあれ
唯一の神、エホバは岩に隱れぬ
シナイ山も荘厳なる岩山
そこより厳しき十戒は下されぬ
砂に風、わずかの羊の食う草
砂と風にたえ花の咲く
粗末なテントに眠る人
星は曇りなき空に満ち満ち
確かな方角を示し導く
厳しき風土に鍛えられ
神とともにありにし民よ
そは一なる神を拜して
強く正しく生きるべし
神の教えは金銀より重く
富よりも何よりも重く
その砂漠の岩山のごとし
エホバはその岩に隱り給いぬ