会津の雪小林勇一

会津にふる雪や
おやみなくしんしんと
会津の雪を我がふみ
会津の雪の深しも
聳ゆる峰の黙しつつ
雪に埋もれし会津かも
会津の酒、会津塗り、
会津の心の鶴ガ城
会津の焼き物、会津の土産
どっしりとした蔵の家々
薪を積んだ曲屋
その歴史を刻む城下町 
なべて会津の色にそまりぬ
広らかに清く川の流れひびき
会津の水の清らかさ
道の辺の古き碑に墓
会津の雪に埋もれ眠りぬ
ひそまる奥の一部落
何か語らむただ雪に埋もれぬ
深々と雪に埋もれぬ
さらにしんしんと心に深く
雪にまた雪はふり積もりぬ
女の白き肌、情深きも
餅のようなねばりも
会津の雪のごとしかも
雪の暮らしの奥会津
人はそれぞれに土地の手形を持つ
その土地土地の色に染まる
はるかな嶺に雪は残りて
黄金色の花は咲くかも
まことの美しき花はここに咲くかも
それ故に深々と神の庭は雪に閉ざしぬ
会津の峰々高く吹雪うなり
不浄の人の入るを拒みぬ
その吹雪く猛威の中に
神は棲みたまいぬ
おやみなく会津の雪はふりにけり
心浄める会津の雪かも
しんしんとしんしんと・・・
ああ 会津の人の心にいつも
その雪のふり積もり
静かな眠りにつく・・・・
敗れしも無念もまた美しく
会津の雪に埋もれぬ
その会津に入る猪苗代湖
その心鎮める湖の碧い色
たちまちここも一面の雪
ま白し雪に染められぬ
不浄のものの来るを拒むがごとく
しかり会津を踏みにじるものの
その醜き血に飢えたる無謀よ
その心はこの浄よらかな雪に消され
今また邪なる者の来るをはばみぬ
波は静かに打ちひびきつつ
松は昔の国の境の街道に枝を垂れぬ
かなたその節操厳しく会津の城は
昔を偲び雪に映えつつ暮れぬ
その山間の民の暮らしもあわれ
朝美しく紅葉は清き流れに散り
今ひっそりと一部落雪に埋もれぬ
時にごうごうと吹雪くや
一部落身を寄せ合うごとく
会津の長き冬にひそみ耐ゆるも
そして春はまだしも
なお浄らかに残さる雪
その残さる雪に城内の松
城の白い壁に松は映え
忠節の証しと松は古りて立ち
会津の山々の囲み閉ざす
崇高なる峻厳なる独立の峰を仰ぎ
志操を高く山国の城そ守りぬ
女とてその心は変らじも
節は曲げぬ節は曲げぬ
「なよたけの風にまかする身ながらも
たわまぬ節はありとこそ聞け」
その心意気城とともにありぬ
君主とともに城に仕えて果てぬ
ああ 会津の春はまだしも
浄らかに雪は残されぬ
会津の人の心に常にその雪がある
純白の雪の覆っている
心の中に雪がふる
心の中に雪がふる
罪を浄めるごとに
しんしんとしんしんと
その中に醜きものはさらに醜く
一時浮かびては消える
悪はそこに耐えがたく退散する
会津の春はまだしも
浄らかに雪は残されぬ
雪解けてその峰高く
純潔の花の咲きなむ